今晩は製品の寿命という、大切だけれども地味な話をしたいと思います。
楽器の名器といえば素人の私でも思い浮かぶのはストラディバリウス。
このヴァイオリンは約300年前に製作されたもので、
現在使われているストラディバリウスは、製作された後の音楽技術の進歩に
合わせて後代の職人が手を加えてはいるそうです。
しかしそれにしてもアコースティック楽器の寿命というものは恐ろしく長いものですね。
これは、一つの楽器として完成されたものであるが故に、長く大切に使われ続けているのでしょう。
私がこれまでに開発してきたのは、主として車と電子機器ですが、車の寿命は平均して約10年。電子機器はものにもよりますが、数年から数十年でしょう。
現代の複雑な工業製品は、最初の段階で製品寿命を設定して開発します。
これは技術が進歩して、数年後にはその製品が陳腐化することを前提にしているわけです。ものによっては買い換えを促進するために意図的に寿命を短縮しているものすらあります。
車が平均10年で廃車される背景には、
・車検制度や整備、税金で持っているだけで維持費がかかるので、
最低でもかなりのお金がかかるなら新しくて良い車に乗った方が良い。
・車は移動という有用性の他に、社会的な地位を象徴する意味合いが期待される。
・現時点では新しい車の方が安全性や排出ガスの点で、また一部の車は燃費で優れる。
これらの理由により10年しか使われないわけです。
それでも一台の車なら車で、10年しか使われずに廃車されることを前提として、
使っている部品の多くが100年持つとするなら、部品の寿命を短くして、
軽くしてその分燃費の良い価格の安い製品を提供した方がユーザーの為にもなる
という考え方をしています。この考えは私も支持します。
製品の寿命をコントロールして安くするという考えがユーザーの立場から見ても正統性を持つのは、あくまでその製品が陳腐化して使われなくなることが前提です。
では、ケロミンの場合はどうなるか、どのような場合に陳腐化するのかを考えてみます。
ケロミンはパペット型電子楽器ですから、一種の人形としての属性と、電子楽器としての属性を持っています。
まず人形として考えてみると、人形が捨てられるときはどのような場合か?
1,はじめから魅力が無い場合。
2,はやりもので流行が過ぎた場合。雛人形等で、必要な時期が過ぎた場合。
3,持ち主の趣向が変わり、飽きられた場合。
4,住宅事情等で、持ち続けることが出来なくなった場合。
5,壊れた、痛んだ場合。
ケースとしてはこの程度でしょうか。
何れにしても、良いもので壊れないものであればいつまでも持ち続けたいと思うでしょう。
次に電子楽器として。電子楽器が捨てられる場合は、人形の場合に加えて、更に性能の良いものが現れて置き換えられる場合があります。性能といっても、更に場合分けが必要で、
6,基本性能が優れたものに置き換えられる場合。
楽器の基本性能は音の良さ、操作性、表現力、こういった部分で優れたものが後から現れれば取り替えたくなるのは当然です。
7,エネルギー消費効率他、ランニングコストの優れたものに置き換えられる場合。
電池寿命が特に短い製品であるとか、アンプなどで大電力を消費する場合は取り替えたくなるでしょう。また、維持費の高い物は交換の対象になるでしょう。
8,新機能付のもの、多機能なものに置き換えられる場合。
従来のものに無い魅力的な機能が備わった新製品が現れたら交換したくなるでしょう。
このように、楽器に限らず電子機器の場合は、電子技術という21世紀初頭では未だ発展途上の技術の上に成り立つものであるが故に、完成されたアコースティック楽器とは違って常に新製品の挑戦を受け、敗れ去るという宿命があるように思います。(例外としては使用状況が限定され、その範囲に関しては電子技術が充分に成熟している領域の製品が考えられます。電子ピアノなどはこれに該当するでしょう。)それでも、6,7,8の内容をよくよく吟味してみると、
6の基本性能は、楽器としての操作系が決まってしまえば、スタート地点からゴール地点が見渡せます。最初から最高のものは無理だとしても、時代を経ても充分に使い物になる基本性能を持たせることは可能です。
7のエネルギー消費効率ですが、ケロミンの場合は電池寿命が不便を感じるほど悪くなければそれで済むと考えられます。
8の新機能としては、今後どのようなものが現れるかは分かりません。可能性は認めても、未来の未知のものに勝ることは必要はありませんから、このケースは想定外とします。
このように考えていくと、ケロミンの製品寿命についてユーザーの立場から見て、陳腐化するので短くても良いという理由は見当たりません。
以上の考察から、ケロミンの寿命は出来る限り長持ちするものとし、また、メンテナンスを考慮した構造とすることとします。(ただしこの考えは目標であって、この場で将来発売される製品の無期限の保証をするものではありませんのでその点はご了承下さい。)
エコロジカルな人から見れば当たり前の結論と見えるかもしれませんが、商人の視線、利潤の追求という観点からはこれは常識から外れたことであるのです。